【第206回】 丸い息遣い

かつて開祖は、息は丸く遣わなければならないと言われていた。当時、それを聞いていた稽古人達は、自分なりに勝手に解釈して自分を納得させていたようだが、実際には何のことか分からなかったのではないだろうか。 

私は当時まだ理屈っぽい学生だったが、この「丸い息」とは自分なりに、尖がらない、攻撃的でも威圧的でもない、マイルドな息か、あるいは吐く息が丸く削られた柱のような息なのか等と考えていたようだ。しかし、一本の柱のような息は出来るとしても、大工でもあるまいし、その柱の角を削って丸くすることなど出来ないだろうなどと思い、丸い息遣いの解明は断念した。

開祖は、合気道を十字道とも言われているが、この場合も十字がキーワードとして重要であるようだ。技は十字で掛かるように出来ているし、体の遣い方も基本的には十字でなければならないといえる。(写真)

以前、何回目かに書いたように、十字は円になり、丸になる。天地の|と左右の━がしっかりしていて交互に動けば丸(円)くなるのである。つまり、丸くなるためには、|(縦)と━(横)に十字に動かなければならないことになる。

そうすると、息が丸くなるためには、縦に働く息と横に働く息を遣えばよいことになる。縦方向に働く息は、自分の腹から頭を通って天の方向と、腹から足下を通って地の方向へ向かう息である。これは主に腹式呼吸の息遣いと考える。

横方向に働く息は、胸から肩甲骨、肩、そして伸ばした腕、手の先の方向に向かうものであり、これは胸式呼吸の息遣いと考える。

技は無論のこと、手を真上に振り上げる際にも、縦方向だけの単純な動きはない。ひとつの動きには、必ず縦と横方向の動きが連動している螺旋の働きがある。

縦に動く時、つまり縦方向に手足を遣う場合は主に腹式呼吸、横に遣う場合は胸式呼吸を遣うことになる。例えば、手をまず腹式呼吸で縦に遣い、今度は胸式呼吸で横に遣い、また縦に遣うようにすればと、息は胸のところで縦方向と横方向の十字になり、縦横が交互に動けば、丸く働くことになるだろう。

腹式呼吸と胸式呼吸で息を十字に流し、縦横に遣うことによって、息が丸く働くことが、息を丸く遣う、丸い息遣いということではないだろうかと考える。