【第199回】 合気の剣

合気道の稽古の基本は徒手体術であるが、その業に剣を持てば合気剣(合気剣法)、杖を取れば合気杖術になると教わっているし、そうならなければならないと考える。
従って、合気のわざ(業と技)が未熟な者には、合気の剣や杖を遣うのは難しいことになるが、それでも人は剣や杖を振り回したくなるものだ。しかし、大体は剣道とか杖道の形の真似とか、又はただ無茶苦茶に振り回しているように見える。得物を持ちたくなるのは人間の本能のようだし、振り回していれば手首や脇が締まったり、筋力がつくなど体はできるだろうから、それも悪くはないのだろう。

合気道の「わざ」が徒手で上手く出来なければ、合気の剣も上手く遣えないことになるわけだが、合気の剣が上手くできるというのは、その剣が合気の理合にあっているということであろう。従って、徒手の合気の「わざ」の理合で剣を遣うのが合気の剣であり、また合気道ではその合気の理に合った合気剣を遣えるようにしなければならないことになる。

それでは、合気の剣とはどういうものなのかということになる。右半身からの一歩下がっての一刀両断の打ち込みの剣を例に、その理合を考えてみよう。

  1. 三角法の態勢で剣を構え、息を吐きながら重心を右前足に乗せ剣を出す
  2. 息を吸いながら重心を左足に移しながら右手中心に剣を振り上げ、右足を後ろに下げる。
  3. 重心を右足に移しながら、左の肩を貫いて左手中心で剣を更に振り上げる
  4. 左足に重心を移動し、右足と共に右の肩を抜いた右手に全身の力を載せて、呼気に合わせて腰で切り下ろす。
  5. 切り終わった相手から身を守る三角法の態勢を取り、吸気する。
この合気の剣には、次のような合気の理合がある: これが出来れば、右半身のままで切り返したり、また敵が打ち込んでくるのを想定して、こちらから打ち込んだり、捌いたりする稽古をしていけばよい。この場合も、パワーに頼ったり、棒振りにならないようにして、合気の徒手に剣を持った、合気の理合にあった剣を遣うようにしなければならない。

合気の剣の稽古をする真の意義は、まず、自分の合気の徒手の「わざ」がどれだけできているのか、いないのかを確認することであろう。徒手では動けているつもりでも、剣など得物を持つと、手足がバラバラにしか動いてない、手が腹腰に結んでいない、回転していない等に、気がつきやすいものである。

また、逆に剣を遣う稽古によって徒手での「わざ」を改善していくことも出来る。腕の筋力をつけるだけでなく、手先と腰腹を結び、腰腹で手(剣)を遣うとか、重心の移動、それに調子(リズム)、スピードなど徒手より身に着きやすいだろう。

剣を振るのはよい。特に高段になってきたら、やらなければならないだろう。徒手だけでの更なる上達は難しいと思うからである。特に、合気道の昇段試験には「太刀取り」があるわけだから、太刀を取るためにも剣が十分振れなければならない。剣が十分遣えなければ、素手で太刀など取れるはずがないだろう。

だが、肝心なことは合気の剣を振ることである。合気の理に合った剣を遣わなければ、合気の基本である体術に役立たないだけでなく、多くの実例があるように、体を痛めることになるだろう。