【第194回】 気結び、生産び、緒結び

合気道は、自己の気とこの宇宙が一体になるようにやらなければならない、と教わっている。もちろん、これは容易なことではない。すぐには出来ないだろうし、最後まで出来ないかもしれない。しかし、合気道の創始者が言われているのだから、挑戦する他はない。

宇宙と一体化するためには、まずは「天之浮橋」に立たなければならない、という。合気道の稽古などで技をかけるにあたって、相手と対峙する場合にも、「天之浮橋」に立たなければ合気はできないのである。「天之浮橋」というのは、魂魄が正しく整った姿である。どちらかが強すぎたり弱すぎたりもしない、バランスがとれた姿であり、これを十字の姿という。力まず、気張らず、そして、息の遣い方がポイントのようだ。

この十字の姿である「天之浮橋」に立って、五体から念を発すれば、宇宙と結び、宇宙と一体化するというのである。これを気結びというのであろう。開祖はよく、「お日様を見てもまぶしくない」と言っておられた。この「天之浮橋」に立ったと思う状態で太陽を見ると、ギラギラした輝きはなくなり、眩しさが消え、赤い玉として見えるので、お日様と結んだと思えると同時に、太陽はこれまでのような遠い存在ではなく、地球が母とすれば、父のような親しみを覚え、いつも見守ってくれたり、導いてくれたり、望みを叶えてくれるもののように思える。

これで、お日様と気結びしたという気になる。それを気結びと信じて、さらに天地の気と気結びし、山川草木とも気結びし、そして稽古の際も、この気結びでやっていけばよいのではないかと考えている。

合気の稽古に戻る。気結びができたら、次は「生産び」(いくむすび)である。「第191回 生産び」で書いたが、開祖の『合気真髄』によれば、技を掛けるなどの「自分の仕事」は「生産び(いくむすび)」で行わなければならないといわれている。つまり、開祖は「日本には日本の教えがあります。太古の昔から。それを稽古するのが合気道であります。昔の行者などは生産びといいました。イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う。それで全部、自分の仕事をするのです。」と言われている。また、開祖は、このクと に吸って盤石な姿にし、ムと く吐いて一元の本に繋げよと言われているのである。
「円は宇宙にある一切の万物生物を、気結び、生産びの形にて、生成化育し、守護の仕組みを生じさせます。」とも言われているので、このムと が重要になることになる。つまりムと と吐けば一元の本に繋がり、五体と宇宙が結ぶというのではないだろうか。

気結び、生産びが出来たら緒結び(おむすび)である。緒結びとは、宇宙と結んだ五体と宇宙が同化し、その響きで仕事をするということのようだ。天の運化、宇宙の営みのひびきを、宇宙と繋がった五体で感じ、五体の響きで魂の技を生み出していかなければならないというのである。それを開祖は「天の運化を腹中に胎蔵して宇宙と同化、そして宇宙の内外の魂を育成して、かつ五体のひびきをもってすべて清浄に融通無碍の緒結びをして、宇宙世界の一元の本と、人の一元の本を知り、同根の意義を究めて、宇宙の中心と正勝、吾勝、勝速日を誤またず、武産の武の阿吽の呼吸の理念力で魂の技を生み出す道を歩まなくてはならない。」と言っておられる。

後は鍛錬の修行があるのみ。迷わず、疑わずに稽古をしていくはほかない。