【第178回】 宇宙と結ぶ

合気道とは、いつも言っているように、技を練磨して精進する道である。技を通して、宇宙と結ぼうとしているのである。しかし、宇宙と結ぶのは容易ではない。先ずはじめは、技の鍛錬において、相対稽古の相手と結ぶことから始めなければならない。稽古相手の人間と結ぶのも、そう容易なことではない。合気の体、念(意識)、呼吸などがある程度整っていなければならないだろうし、宇宙と結ぶという信念を持たなければならない。

相手の人間とも結ぶことができなければ、宇宙とも結ぶこともできないだろう。物事にはやるべきことと順序がある。それをひとつひとつやり遂げながら、精進していかなければならないだろう。

開祖は、宇宙との結びをするためにはどうすればよいのか、具体的に説明されてもいる。「何事も"天の浮橋に立たして"から始まるのであります。古来より日本でも今迄誰もこれを修するものはありません。天の浮橋に立った折りには、自分の想念を天にも偏せず、地にも執(つ)かず、天と地との真中に立って大神様のみ心にむすぶ信念、むすびによって進まなければなりません。そうしませんと天と地との緒結び、自分と宇宙との緒結びは出来ないのです。天の浮橋に立つ時、魂に宇宙の妙精を悉く吸収するのです。天之御中主神となって立つのですよ。」

つまり、天の浮橋に立って、精神も肉体も何にも捉われない状態にすると、魂(集合的無意識)が働きだし、宇宙の精妙を感応するということであろう。これが、宇宙との結びということではないだろうか。従って、宇宙は集合的無意識との交流であり、集合的無意識で感じることになろう。

開祖が「タカアマハラ(宇宙)は天をいくら探してもない。自分の中にある。」と言われているのは、タカアマハラは宇宙と結んでいる集合的無意識の中にあるということであろう。だから、人の体内には宇宙があり、宇宙が息吹いているということになるだろう。

開祖はまた、「人の身の内には天地の真理が宿されている。天地万有は呼吸(いき)をもっている。精神の糸筋をことごとく受け止めているのである。おのが呼吸の動きは、ことごとく天地万有に連なっている。つまり己の心のひびきを、五音、五感、五臓、五体の順序に自己の玉の緒の動きを、ことごとく天地に響かせ、つらぬくようにしなければならない。」(「合気真髄」)と言われている。
合気道の修行は、宇宙と結び、宇宙の呼吸を自分の小宇宙である心身に響かせ、そして、己の響きを宇宙に響かせることであるようである。これを「山彦の道」というのではないだろうか。

参考文献  「合気真髄」