【第172回】 「合気」とは
合気道では、技の名称などの合気道用語はそれほど多くないと言えよう。しかし、開祖の講話をまとめた『武産合気』や、『合気道新聞』に書かれたものをまとめた「合気真髄」の中には、多くの専門用語が使われているので、それらを合気道用語とすれば、合気道用語は沢山あるとも言えるだろう。
通常頻繁に使用している合気道用語はそれほど多くはないが、それだけ非常に重要であるはずだ。技の名称などは、その最たるものである。例えば「入身投げ」「小手返し」などは、その典型的なものであろう。「入身」が分からずに「入身投げ」は出来ないし、「小手」が何か分からなければ「小手返し」が出来る訳がないのである。
開祖や先代道主は、技に名前をつけるのに相当苦心されたはずである。我々稽古人は先人が苦心して考えた技の名前や合気道用語を疎かにしないで、その真髄を知る努力をし、それを技に取り入れながら合気の道の修練を図っていくべきであろう。
合気道用語の中で、最も頻繁に使用されながら、最も難解なものの一つが「合気」であろう。合気道を修行しているのに、「合気」とは何かが分からなかったり、分ろうとしないのは、道の目標がないことになるので、考えてみると可笑しなことである。恐らく稽古人のほとんどは、なんとなく「合気」とはこんなものではないかと漠然と思い、なんとなくそれに向かって進んでいるのではないだろうか。
「合気」とは何かが明瞭になればなるほど、稽古の目標もはっきりしてくるわけだから、この合気道の「合気」の意味するところの研究は重要なはずである。
しかし、この「合気」という言葉を開祖は一言で定義せずに、漠然と説明されているだけなので、後は自分達で研究しなければならないことになる。だが、有難いことに開祖はその為のヒントを残して下さっているので、それによってある程度までの解釈は出来るのではないかと考える。
まず、「合気真髄」の中の道歌に「合気とは」何かを詠まれているものがあるので、その道歌を見てみたい。
- 合気とは愛の力の本にして愛は益々栄えゆくべし
- 合気とは神の御姿御心ぞいづとみづとの御親とほとし
- 合気とは筆や口にはつくされず言(こと)ぶれせずに悟り行へ
- 合気とは解けばむつかし道なれどありのままなる天のめぐりよ
- 合気とは万和合の力なりたゆまず磨け道の人々
この他に「合気真髄」の中の道歌には、「合気」を説明されている次のような歌がある。
- 合気にてよろづ力を働かし美しき世と安く和すべし
- ありがたや伊都とみづとの合気十(どう)ををしく進め瑞の御声に
- 千早ぶる神の仕組みの合気十(どう)八大力の神のさむはら
- 神ながら合気のわざを極れば如何なる敵も襲うすべなし
- いきいのち廻り栄ゆる世の仕組みたまの合気は天の浮橋
- 武産は御親の水火(いき)に合気してその営みは岐美の神業
- 諸結びの七十五つ(ななそいつ)の御姿は合気となりて世をば清めつ
- 天地は汝れは合気とひびけども何も知らずに神の手枕
「合気真髄」には道歌の他にも、文章の中で「合気」の説明がされている、というより、「合気真髄」そのものが題名のように「合気」「合気道」の神髄を説明している書物と言えよう。その内で、「合気」に関して目についたものを幾つか挙げてみると:
- 合気では、自己の気と、この宇宙と一体になる
- 合気というものは、宇宙の気と合気しているのである
- 「天地人和楽の道の合気道 大海原に生けるやまびこ」
- この山彦の道がわかれば合気は卒業であります
初めの「合気とは」の5つの道歌から分かることは、「合気」とは「愛の力の本」「神の御姿御心、とりわけイザナギとイザナミの神様の御姿御心」「説明出来るものではないので自ら悟って行わなければならない」「天のめぐり、つまり宇宙生成化育の営み」「すべてを和合する力」ということであろう。
そして、それに続く道歌から分かることは、「合気」は「美しい世をつくるための力」「イザナギとイザナミが十字に交わる姿」「神の仕組みで、力の源」「神ながらの技」「天の浮橋」「水火」「世を清める」「天地にひびく」などということである。
三つ目の文章から抜き出したものから分かることは、「合気」とは「宇宙との一体化」「宇宙の気との合気」「やまびこ」であると解釈出来る。
またもう一つの合気道不朽の名著『武産合気』から、「合気」に関するものを幾つか拾ってみると、
- 合気は愛を生む武産の武であり、大和大愛の愛気にほかならぬ。
- 五体の響きは心身の統一をまず発兆の土台とし、発兆したるのちには宇宙の響きと同調し、相互に照応・交流しあうところから合気の気が生じる。すなはち、五体の響きが宇宙の響きとこだまする山彦の道こそ合気道の妙諦にほかならぬ。
- 合気の道は愛を守の道であります。愛なくばこの世の一切は成り立たないのです。故に合気の真の働きがなければこの世はつぶれると私は信じているのであります。
- 合気とは、宇宙の中心に立って、ただよえる世を立直す役目を持っておる処の一つの道であります。
- 森羅万象すべてに、虫けらまでにもその処を得さしめ、そして各々の道を守り、生成化育の大道を明らかにするのが合気(道)の道であります。
- 合気はある意味で、剣を使う代わりに、自分のいきの誠をもって、悪魔を祓い消すのである。
- 合気はこのナギナミ二尊の島産み神産みに基礎根源をおいているのであり、これを始めとしているのである。
- 合気により、天界と不離一体となる修行をすることが必要なのである。
この中から「
合気」のキーワードを拾ってみると、「愛気」「五体の響きが宇宙の響きとこだまする山彦」「世を守る」「宇宙の中心に立っている」「生成化育の大道を明らかにする」「悪魔を祓い消す」「ナギナミ二尊の島産み神産みに基礎根源をおいている」「天界と不離一体となる修行が出来る」となろう。
「
合気」が理解し難い訳は、このように多様な意味があることと、見る角度によって違うものが見えるし、それがどれも目に捉えることが出来ないことである。
開祖の道歌にあるように、「合気とは何かは、筆や口にはつくされない」ようだが、敢えて私の考えをまとめてみると、「
合気」とは一口で言えば、「宇宙の響きに同調すること、生成化育にある宇宙の営みと一体化すること」ということではないかと考える。従って、「合気の道」の修行の目標は、開祖が言われている、宇宙生成化育のお手伝いをする、宇宙の大虚空の修理固成であり、古典の古事記の実行であり、そして、世の立て直しにご奉仕することということになろう。
参考文献 『武産合気』『合気真髄』
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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