【第15回】 合気道は「引力の養成」

合気道の稽古を長年やっていくと、稽古で相手に技をかけるとき、相手が掴んだ手を相手が離そうとしてもくっ付いて離れないようになる。相手が本気で離そうとすれば離すこともできるだろうが、普通は不思議なことにそういう気持ちにならないのである。
通常はふたつの物体(二人)がぶつかれば反発し合い、分離することになるが、合気道ではこれを融合し、相手と一つになる。相手と争うのではなく、相手の不足分を補い、相手の仕事の邪魔をしないようにおさめるのである。この融合することを合気とも結ぶといい、この力が引力なのだろう。合気道では、「むすび」を生じさせる引き合う力を引力という。

合気をかけると、相手と接する部位には、出る力と引く力(呼吸力)の陰陽の力と地球の引力が働き、全体ではそれらの力が相殺し合い、力のベクトルはゼロになるが、そこに内在するエネルギーは膨大なものになり、これが引力となり相手をくっつけ、結ぶのだと思われる。
相手をくっつける引力を出すには、小手先で技をかけるのではなく、菱形筋や大腰筋などの深層筋を使うことと、尾てい骨横隔膜を使う深い呼吸法である。概して、息を吸い込んだときに引力が働きくっつきやすくなる。

相手をこの引力で合気し、くっ付けて結ぶ感覚は、四方投げで最後に投げる代わりに、相手の手を自分の首に巻きつける稽古(写真)がある。それから、後ろ両手取りで相手を背中にはり付ける稽古も、くっつく感覚(引力)が分かりやすい稽古法である。

相手との引力を感ずる以前に、自分で引力を感じられなければならない。以前紹介した「お風呂の中での稽古」で浮かせた腕で地球の引力を感ずることができよう。勿論、そのためには合気道の基本技をしっかりやり、身体の節々のカスを取らなければならない。