【第138回】 摩擦連行作用

合気道家は、合気の真髄を把握すべく、日夜稽古に励み、修練を続けている。しかし、これを把握するのは容易ではない。なぜならば、その真髄を把握するためには知らなければならないこと、出来なければならないことが沢山あるからでる。その中のひとつに、相手を「引っ付ける」「くっ付ける」というのがある。

相手を倒したり崩したりするには、いろいろな方法がある。殴ったり、蹴ったり、突いたりしたり、掴んで投げたりする他に、剣や杖などの得物を使うとか、鉄砲などの武器を使う方法もある。合気道でも合気の真髄を把握するために、技を通して稽古相手を崩したり倒して稽古していくが、その方法は叩いたり、弾いたりする方法と違い、相手と一つになって、相手を倒すも生かすも自由にしてしまうものである。しかも、相手を倒すのではなく、相手が喜んで自ら倒れてくれるようにならなければならないのである。

合気道は「引力の養成」であるともいわれる。しかし、この「引力」を身につけたり感じるのは容易ではない。地球の引力、潮の干満だけでなく、ニュートン流に言えば、物体が二つ以上あればお互いに引力が及ぼし合うというが、その引力はなかなか意識したり、感じたりしることができないものだ。だが、我々が意識するしないに関わらず、モノは下に落ちるし、自然界では満月や満潮のときに、珊瑚や魚が産卵したりする。引力は実際にあるし、想像以上の大きな力と働きがあるようである。

この引力を身につけるべく修練するのが合気道であるが、それではどうすればその引力を身につけられるようになるかということになる。気持ちだけでは駄目だし、ただ体を動かすだけでも駄目である。それを意識したうえで、理に合った体を使った稽古をし、その体遣い、動きを「わざ」にしていかなければならない。

引力を生む「わざ」(業、動き、体遣い)は、「摩擦連行」である。摩擦であるから、接触はするが、叩くのでも押すのでもない。そしてその摩擦が途切れず続くのが「摩擦連行」であろう。相手の攻撃してくる手を叩いたり、弾いたりするのではなく、くっ付けるのである。そのためには、手と腹腰をしっかり結び、相手との接点になる手を動かすのではなく、足の体重移動をしながら、腹腰で結んだ手を回転させつつ摩擦して相手を導くのである。

合気道の技はこの「摩擦連行」でやらなければならないが、特に片手取り転換法、横面打ちなどでこの感覚は掴み易い。しかし、相手が腕を持っていれば「摩擦連行」は割合にやり易いが、横面打ちになるとちょっと難しくなるし、正面打ちになるともっと難しくなる。最も難しく奥深い正面打ちでこの「摩擦連行」ができるようになれば、合気の真髄を把握したといってもいいのかもしれない。なぜならば、開祖は『合気真髄』の中で、「この摩擦連行作用を生じさすことができてこそ、合気の真髄を把握することができるのである」と言われている。

体術でこの「摩擦連行作用」ができるようになれば、剣や杖でも出来るはずである。これが合気剣、合気杖と言われるものであろう。

参考文献   『合気真髄』植芝吉祥丸著