【第121回】 宇宙の組織を体内に造り上げる

稽古事をしたり、学問に没頭したり、武道を修行する究極の目標は、自己を知り、そして宇宙の条理を知ることと言えるようだ。合気道はまさにそうである。

開祖は「合気道を体得したならば、宇宙の条理が分かり、また、自己をよく知り、分かってくる。」(合気真髄)と言われた。そのためには、宇宙組織を自分の体内に造り上げていかなければならないという。それを開祖は「合気は宇宙組織を我が体内に造りあげていくのです。宇宙組織をことごとく自己の身の内に吸収し、結ぶのです。」(合気真髄)と言われている。宇宙組織を体内に造り上げることなどとても出来ないと思うが、開祖は出来るはずだといわれている。何故ならば、「宇宙と人体は同じものである。」と言われるし、また「これを知らねば、合気はわからない。」とも言われているからである。

宇宙と人体は同じと言われても中々信じられないが、合気道を精進しようとするならば、信じなければならない。そこでまず、宇宙と人体の共通点を探してみるのがいいと思うので、思いつくものを上げてみる。

例えば、一つには、宇宙と人体の両方とも、原子で出来た物質と目に見えないモノから出来ている。人体は魄と魂であり、宇宙は星などの原子でできた目に見える物質と目にみえない暗黒物質や暗黒エネルギーである。宇宙の成分で目に見える物質(原子)の割合はたったの5%であり、残りの95%は、物質ではない見えないモノ(暗黒物質と暗黒エネルギー)で構成されていることが分かっているが、人体も目に見える肉体と目に見えない精神、意識、無意識などで構成されているわけだから、恐らくこの割合も5対95になるということかもしれない。魂が魄の上に来なければならない、と開祖が言われたが、このこととも関係があるようだ。また、宇宙は無限といわれるが、人のこころも無限といえるだろう。

次に、人の体も宇宙も、創造されるときは螺旋であるということである。人体が螺旋で出来ている証拠の一つとしては、例えば頭にある旋毛(つむじ)があげられる。宇宙で星ができたり、星雲ができるときは、必ず螺旋の渦である。さらに、人間の遺伝子は螺旋状に絡み合っている二重螺旋であるし、宇宙は一元のカミからタカムスビとカミムスビの魂魄が生まれたと、開祖は言われている。

また、人体と宇宙を構成するものは同じであるという。人間社会ではこの構成物質を原子というが、月も太陽も、また地球も同じ成分であるということは、人と月も太陽も地球も親子兄弟ということになる。そういう意味でも、母なる大地(地球)を大切にしなければならないし、大事にしなければ親不孝となるだろう。まだまだ他にも沢山共通点はあるはずだ。

だが、開祖はそう言われても、凡人がそうやすやすと、宇宙の組織を体内に造り上げるのは容易ではない。そこで凡人はどうすればいいのかということになる。

先ずは、なによりも開祖の言葉を信じて、その言葉に従って修行することである。次に、宇宙の組織が出来るような体を造らなければならない。そのためには、宇宙のひびきに感応できる体を造らなければならない。開祖もこれを「この為に、宇宙のひびきに『こだま』して、力強く五体に反応しなければならない。」(合気真髄)と言われている。

宇宙のひびきに『こだま』して、反応する体をつくるためには、宇宙の条理、宇宙の動きからできた合気道、武産合気の技の形稽古をすることである。

例えば、今はまだ爆発したビッグバンが宇宙を拡大しているといわれる。本来ならば、ダークマター(暗黒物質)が拡大のスピードを落とす働きをしているので、宇宙は縮小するはずだが、拡大しているのである。その理由はダークエネルギー(暗黒エネルギー)が働いて拡大しているという。つまり、動きを抑えるエネルギーと動きを促進するエネルギーがあり、今は促進するエネルギーの方が若干強力であるのである。合気道の「わざ」を通して、この両方の力(遠心力と求心力)、エネルギーが働き、若干、促進する力、遠心力が強く出るような体にすることだろう。

また、宇宙にあるものはすべて引力で結び合っている。合気道も、引力の養成といわれるように、相手と引力で結ぶような体にしなければならない。宇宙で星雲や星などモノが出来る場合は、旋回運動をしている。天の沼矛(アメノヌボコ)による旋回運動で中心に集まったものはオノコロ島と言われている。太陽系で中心になって集まってできたものは太陽であり、人体では丹田ということができよう。天体や星は、引力で結び合いながら、公転し自転している。合気の体も体幹の公転、手先の自転が体幹と、手が引力で結ばれたまま動かなければならないだろう。

宇宙の条理、宇宙の法則は、宇宙のように無限にあるだろうが、それを宇宙のひびきとして感じ、それを合気道の「わざ」反応していくのが合気の道の修行ということだろう。

参考資料:
 『合気真髄』
 「Newton」 08年7月号