【第111回】 天之浮橋に立つ

合気道は天之浮橋に立たなければならない。天之浮橋は古事記にある、天上界と地上界の中間にかかっている橋で、地上と神界をつなぐ幽界といえよう。

この橋に立つためには、まずモノ(魄)と精神(魂)が正しくバランスがとれていなければならないという。体格や力に頼るなど、モノの力(魄)が強すぎると浮橋に立てないことになる。魂魄が正しく整っていれば、この天之浮橋は十字になるという。合気道では、この十字が非常に大切である。

古事記では、この天之浮橋に立ったのは伊佐那岐神と伊佐那美神であるので、十字の横の一は伊佐那岐神・伊佐那美神ということになる。また縦の│は高御産霊神・神産霊神、そして一元の元の神、天之御中主之神ということになる。

合気道で呼吸法や技を鍛錬する場合、天之浮橋に立った稽古をしなければならない。開祖のような達人になれば、天之浮橋に立って祈りや神楽舞、そして合気の稽古が自由自在にできるだろうが、普通の者は合気道の技の形稽古を通して修練するほかはない。

天之浮橋に立つための最良の稽古は、座技呼吸法と考える。この座技呼吸法が最もこの天之浮橋の感覚を得易いからである。座技は立ち技と違って、下半身が自由に使えないので、体と息を正確に使わなければ出来ないからであるし、十字の感覚が得易いからである。

まず相手に両手を持たせるが、ここで相手を倒そうと力まないことである。腰からの力で、相手の手にくっつけるようにし、相手の中心と結ばなければならない。触れている手を通して、お互いの体が一体化しなければならない。

一体化したら、伊佐那岐神・伊佐那美神になったつもりで重心を左右横に移動する。これが十字の横のーである。横に振ると手は自然に舞い上がって、相手も引っ付いて上がってくる。すると十字の横―が縦の│に変わり、螺旋で舞い上がり、舞い下りる天地の水火の呼吸と結ぶのである。これを高御産神・神産霊神というのであろう。

そして、この高御産霊神・神産霊神が宇宙万有一切を創造する一元の神、天之御中主之神に結ぶ。この一元の神にすべてが結びついた時点で、技を掛ければ思うように投げたり、抑えたりできることになる。

座技呼吸法でもそうだが、人は本能的に持たれた手を直ぐ上げようとしてしまう。上げるとは十字の縦の│の動きであるが、上げる前には十字の横の―がないと、ぶつかってしまい争いになる。

手や体の動きは、呼吸に合わせてやらなければならない。息遣いによって手や体を動かさなければならない。息の遣い方、呼吸が正しくないと、十字の感覚、螺旋の感覚は掴めず、天之浮橋に立つ感覚を得るのは難しいだろう。座技呼吸法だけでなく、合気道の技を掛ける時も、天之浮橋に立った体や息使いをしなければならない。ますますの研究が必要である。